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怖い顔

 

わたしは皆の役に立ちたかった。

皆に認められて、頼られて、そんな自分が好きだった。

他者からの評価でしか自分を認められないからこそ、どんなに大変でも周りに気を配ることをやめなかった。それで良かった。皆の為のわたしだったから。

 

菊地に切ったばかりの血まみれの腕を見せた。

「これを見たら皆わたしの気持ちを分かってくれるかな」

常に冷静な筈の菊地は、驚きと恐怖を隠しきれていなかった。

初めて菊地が何かに怯えている顔を見て、その表情があまりにも痛々しくて気がつけばわたしは泣き叫んでいた。

 

いつかこうなる事は分かっていた。

順調に病状も寛解に近付いていたけれど、このまま何事もなくあっさりと完治する訳がないと心のどこかで確信していた。わたしの人生で物事が大きな障害もなく順調に進んだ試しなどないから。

 

菊地は必死にわたしに止血を促した。わたしは菊地に嫌われてしまうだろうという恐怖、誰もわたしを求めてくれない悲しみ、邪魔物、お荷物、居場所を失った絶望感でいっぱいになり、その場に踞って発狂するしかなかった。気付けば何故か顔にも血が沢山ついていた。ごめんなさいと謝り続けるわたしを菊地は強く抱き締めて、その手は小刻みに震えていた。

 

明日は更新した障害者手帳を取りに行く。

二ヶ所の役所に行かなくてはいけないので正直クソほどかったるいが、顔付き身分証明書が障害者手帳しかないので仕方ない。

 

セルフネイルをした。仕事柄派手なネイルは厳禁なので今の仕事に就いてからほとんどしなかったが、いい機会だと思いやってみると思いの外難しかった。左の薬指にエメラルドグリーンのストーンを、右の人差し指にターコイズブルーのストーンをつけた。とてもかわいくて気に入った。

 

明日の夜ご飯は何にしよう。